家族信託は、認知症による資産凍結を防ぐための制度です。一般的には専門家に依頼し、信託契約書を作成し手続きを進めますが、自分で手続きをすることも可能です。
大きなメリットは、費用が安く済むこと。専門家に依頼すると50万円から100万円かかる費用が、自分で手続きをすると約20万円程度におさえられます。
しかし実際のところ、専門家に依頼するのではなく自分でおこなう場合には、デメリットの方が大きい所感です。本記事では、家族信託を自分で行う際のポイントの他にもデメリット部分も詳しく解説します。信託を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
家族信託は自分でできる?基本の説明
家族信託を自分で行うことは可能ですが、いくつかの重要な点を理解しておく必要があります。まずは家族信託の基本を押さえましょう。
家族信託とは
家族信託は、資産凍結を防ぐ目的で使われる制度で、主に家族内で管理・運用するための仕組みです。信託者(財産を預ける人)が受託者(財産を管理する人)に資産を託し、受益者(信託の利益を受ける人)がその恩恵を受ける形をとります。家族内で信頼関係を基に運用するため、柔軟に対応できる点が魅力です。
信託契約書の作成や信託財産の移転など、いくつかの手続きが必要ですが、これを自分で行うことも可能です。ただし、専門知識が求められるため細心の注意が必要です。
家族信託の手続きを自分で行う場合にかかる費用
家族信託の手続きを自分で行う場合、主な費用として以下が挙げられます。
- 信託契約書の作成にかかる費用
- 公正証書作成手数料
- 不動産の信託登記にかかる費用
- 家族信託用の信託口座開設費用
これらの費用の合計は、数万円から20万円程度が必要となることが一般的です。それぞれどれくらいの費用が何に必要になるのか詳しく解説していきます。
信託契約書の作成にかかる費用
まず、信託契約書の作成にかかる費用です。
自分で書類を作成する場合でも、専門書やフォーマットを購入する費用が発生します。無料でひな形がダウンロードできる場合もあります。
公正証書作成手数料
公証役場での公正証書作成を希望する場合、その手数料もかかります。
具体的な公正証書作成費用
信託財産の金額
100万円まで:5000円
200万円まで:7000円
500万円まで:11000円
1000万円まで:17000円
3000万円まで:23000円
5000万円まで:29000円
1億円まで:43000円
3億円まで:5000万円ごとに13000円加算
10億円まで:5000万円ごとに11000円加算
10億円越:5000万円ごとに8000円加算
平成五年政令第二百二十四号公証人手数料令」 参考:e-Gov法令検索「
不動産の信託登記にかかる費用
不動産を信託財産とする場合、移転に伴う登録免許税がかかります。
土地 | 建物 |
不動産の固定資産税評価額×0.3% (令和5年3月31日まで特例) | 不動産の固定資産税評価額×0.4% |
また、登記手続きを司法書士に依頼する場合には、その報酬も考慮する必要があります。
家族信託用の信託口座開設費用
家族信託用の口座には「信託口口座」と「信託専用口座」の2種類があります。
信託口口座は、信託法に基づき、受託者が委託者から信託された金銭を管理するための口座のことで、5万円から10万円ほどの手数料がかかります。
ただし、本来は信託口口座を利用するのが正規の方法なのですが、開設可能な金融機関が少ないことや、金融機関側の要件を満たすこと、開設のハードルが高いなどデメリットが多くあまり利用されていないのが現状。そのため、実質的には信託契約書の条項に口座番号を明記したうえで、新規の普通口座開設が主流となってます。普通口座を開設する場合には費用はかかりません。
家族信託の手続きを専門家に依頼した場合にかかる費用
家族信託の手続きを専門家に依頼する場合は、初期費用が高くなります。
司法書士や弁護士に依頼すると、信託契約書の作成から登記手続きまで一括して依頼することが一般的です。その報酬は最低でも30万円以上が必要です。
また、信託財産が不動産の場合は、登記手続きにかかる費用も発生します。これには登録免許税や司法書士の手数料が含まれます。不動産を信託財産にするときには、50万円から100万円以上の費用がかかることもあります。
しかし、高額な費用がかかる一方で、専門家に依頼することで手続きの正確性や迅速さが保証される点が最大のメリットです。
家族信託を自分でやることのメリットとデメリット
メリット
自己でおこなうことで理解度が深まるメリットもある
自分で家族信託の手続きをおこなう最大のメリットは、コスト削減です。専門家に依頼する場合に比べ、費用を大幅におさえることができます。
信託契約書の作成や登記手続きに必要な費用を最小限に抑えられるため、信託のメリットを受けられつつも、費用面での負担を大幅に軽減できます。
また、手続きに必要な知識や情報を自分で調べることで、信託に関する理解が深まり、今後の管理や運用に役立てることも可能です。
デメリット
家族信託を自分でおこなうことのデメリットは以下のとおりです。
手続きに不備があると無効になってしまう
家族間でトラブルが発生する可能性がある
本来支払う必要がない税金が課せられるおそれがある
専門知識が必要な手続きのためスムーズに進まない
家族信託の手続きには専門的な知識が求められます。信託契約書の作成や登記手続き、税務処理など、細かな知識が必要です。
これらの知識を持たないまま手続きを進めるとスムーズに進まないことが多く、情報収集や学習に多くの時間を費やすことになるでしょう。そのため、手続きが滞る可能性があり、結果的に信託の設定が遅れることがあります。
手続きに不備があると無効になってしまう
家族信託の手続きを自分でおこなう場合、手続きに不備があると信託が無効になるリスクがあります。信託契約書の内容が不十分だったり、登記手続きが正しくおこなわれていなかったりすると、信託の効力が認められません。
信託が無効になると、資産管理や相続に関する問題が解決されないだけでなく、再度手続きをやり直す必要がでてきたりと、余計な時間や費用が発生することになります。
正確な手続きを行うためには、専門的な知識と経験が求められるため、自分でおこなう場合は特に注意が必要です。
家族間でトラブルが発生する可能性がある
家族信託を設計する過程で、家族間でのトラブルが発生する可能性があります。
信託の内容や管理方法について家族全員の意見 が一致しない場合、対立が生じることもあるでしょう。特に、信託財産の管理や分配に関する意見の相違があると、信託の運用がスムーズに進まないことがあります。家族全員が納得した上で信託を進めることが重要ですが、意見調整が難航することも考えられます。
このようなトラブルを防ぐためには、信託の手続き前に十分な話し合いを行い、全員が納得する形で信託を進めることが大切です。
本来支払う必要がない税金が課せられるおそれがある
家族信託の手続きに不備がある場合、税務上の問題が発生する可能性もあります。本来は免除されるべき税金が課せられることがあるため、注意が必要です。
例えば、信託財産の移転が適切に行われていない場合、贈与税や相続税が発生することがあります。また、信託契約書の内容に誤りがあると、税務署からの指摘を受けることもあります。
税務処理を適切に行うためには、信託の設計段階から税務に関する知識を持ち、正確な手続きを行うことが求められます。
家族信託を自分でやるときの手続き方法
家族信託の手続きを正確におこなうためには、各ステップを理解し適切に進めることが重要です。
- 信託契約書の作成
- 信託財産の移転
- 信託の登記手続き
①信託契約書の作成
家族信託の最初のステップは、信託契約書の作成です。信託契約書は、信託の内容や条件を明確に記載した文書であり、信託者、受託者、受益者の役割や責任を明示します。
信託契約書の作成には、以下の項目を含める必要があります。
- 信託の目的
- 信託財産の内容
- 受託者の義務と権利
- 受益者の権利
上記の項目を正確に記載し、信託の内容を明確にすることで、後のトラブルを防ぐことができます。また、公証役場での公正証書にすることも検討しましょう。
②信託財産の移転
信託契約書が完成したら、次に信託財産の移転を行います。信託財産が不動産の場合は、登記手続きを行い、信託名義に変更します。
信託財産が現金や有価証券の場合は、銀行や証券会社に対して信託の名義変更を依頼します。この手続きにより、信託財産が正式に受託者の管理下に置かれます。
信託財産の移転が完了することで、信託の運用が開始されます。適切な手続きを行い、信託財産が確実に管理されるようにしましょう。
③信託の登記手続き
信託財産が不動産の場合、信託の登記手続きを行うことが必要です。不動産登記簿に信託の内容を記載し、信託の効力を正式に認めさせます。
登記手続きは、法務局でおこないます。信託契約書やその他必要書類を提出し、登録免許税を支払います。手続きに不備がないよう、十分に確認を行いましょう。
登記が完了すると、信託の設定が正式に認められ、信託財産の管理が開始されます。適切な手続きを行うことで、信託の効力を確実にすることが重要です。
家族信託を自分でやるときの注意点やリスク
家族信託を自分でおこなう際には、注意点やリスクを十分に理解し、適切に対応することが重要です。
法的なリスクを理解する
家族信託には法的なリスクが伴います。信託契約書の内容が不適切だったり、手続きに不備があると、信託が無効になる可能性があります。
特に信託契約書の作成や登記手続きは、法的に正確であることが求められます。誤りがあると信託が無効になるだけでなく、法的なトラブルに発展することもあります。法的なリスクを最小限に抑えるためには、専門書を参考にしたり、必要に応じて専門家の助言を受けることが重要です。
税務処理を適切におこなう
家族信託の手続きには税務処理も重要なポイントです。信託財産の移転や運用に伴い、税務処理を適切に行う必要があります。
信託の設定や運用において、税務上の問題が発生しないよう、事前に税務に関する知識を身につけることが重要です。特に贈与税や相続税に関する処理は慎重に行いましょう。
必要に応じて、税理士の助言を受けることも検討してください。適切な税務処理を行うことで、不要な税金の支払いを防ぐことができます。
信託財産の管理に注意する
信託財産の管理は、信託の成功に欠かせない要素です。信託財産が適切に管理されない場合、信託の目的が達成されないだけでなく、家族間でのトラブルが発生する可能性があります。
信託財産の管理には、定期的な報告や透明性の確保が求められます。受託者は信託財産の運用状況を家族に報告し、信託の進捗を共有することが重要です。適切な管理を行うことで、信託の効果を最大限に引き出し、家族全員が安心して信託を利用できるようになります。
専門家に依頼する場合との比較
家族信託の手続きを自分でする場合と、専門家に依頼する場合の違いについて比較してみましょう。
コストの違い
最も大きな違いはコストです。自分で行う場合は初期費用を抑えることができますが、専門家に依頼する場合は高額な費用がかかります。費用を節約したい場合は自分でおこなうことが適しています。
ただし、専門家に依頼することで手続きの正確性や迅速さが保証されるため、費用対効果を考慮することも重要です。特に信託財産が大規模な場合や複雑な場合は、専門家の助けを借りることが賢明です。
手続き全体に対する労力
手続きの簡便さも重要な要素です。情報収集や書類作成、登記手続きなどを自己でおこなう必要があり、かなりの手間がかかります。
一方で、 専門家に依頼する場合は、手続きを一任することができるため、手間を大幅に削減できます。特に初めて信託をおこなう場合や、忙しい方にとっては、専門家へ依頼する方が圧倒的に楽になります。
リスク管理の違い
リスク管理においても、自分でおこなう場合と専門家に依頼する場合には違いがあります。自分でおこなうときには、法的なリスクや税務上のリスクを自ら管理する必要があります。
専門家に依頼することで、法的リスクを最小限に抑えることができます。専門家は経験と知識を持っているため、信託手続きを正確に行い、リスクを回避する方法も提案してくれます。リスク管理の観点からも、信託財産が大きい場合や複雑な状況にある場合は、専門家に依頼する方がスムーズです。
まとめ:家族信託を自分でやる際のメリットとデメリット
家族信託を自分でおこなう場合にはコスト削減が大きなメリットになります。しかし、専門知識の不足や手続きの不備によるリスクも存在します。
総合的には、信託の規模や内容、家族の状況に応じて、自分でおこなうか専門家に依頼するかを選択することが重要です。信託の手続きが簡単な場合や、コストを抑えたい場合は自分で行うことが適しています。
また、家族の状況やニーズに応じた選択が求められます。家族の信頼関係が強く、協力体制が整っている場合は、自分でおこなうことも選択肢の一つとして良いかもしれません。
ただ、信託財産が大規模で複雑な場合や、法的リスクを最小限に抑えたい場合は、専門家に依頼することが賢明です。
家族の将来を見据えた最適な選択をすることが、信託の成功に繋がります。適切な手続きを行い、信託のメリットを最大限に活用することで、家族の安心と信頼を築くことができるでしょう。
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